嘉陽小火車・芭石鉄路


【河口(中国雲南)→ラオカイ(ベトナム)】

2015年春節に中国とベトナムの国境を徒歩で越え、ベトナム国境の街ラオカイからハノイまで夜行列車の旅をしましたので、いつもとは少し趣向を変え、旅行記・列車乗車記として書いてみたいと思います。

中国は非常に多くの国と国境を接していますが、そのうち何か所かは徒歩で通過することが出来ます。

筆者は2008年に広西チワン族自治区友誼関を抜けてベトナムのダンドン・ランソンを日帰りで訪れたことがありますが、今回は雲南省南端の河口からベトナムに入るルートに挑戦してみることにしました。

雲南省とベトナムの国境の街である河口は、省都昆明から約400km、高速道路が開通していますので、車で半日程度で到着します。

かつてはベトナムへの旅客列車も運行されていたそうですが、現在は廃線、一方で直通高速道路は2015年2月現在建設途中で未開通であることから、国境を越える方法は徒歩のみとなります。

河口の街に到着するとベトナムとの間に流れる紅河に架かる橋が国境となっていました。

右上写真は中国側から見た国境です。
春節に訪れた為、国境見学に来た中国人観光客でごった返していました。

筆者はこの国境の前で車を降りてしまったのですが、国境の入口はもう少し戻った左写真の「河口口岸聯検中心」にあります。

この建物の正面1階の出入口は中国入国専用となっており、出国する人は左側にある小さな「出境大庁入口」(右写真)からエスカレーターで二階に上がります。

二階ではまず簡単なパスポートチェックがあり、その先が正式な出国審査場となっています。

出国審査カウンター前に居た担当官からは、「日本人のベトナム入国はビザ免除だが、今年(2015年)から前回の入国より30日以上経過していないと駄目とルールが変更になったのは知っているか?前回ベトナムにはいつ行った?」と注意喚起してくれました。

審査は通常の飛行機での出国と大差なく、審査場を越えて再び階段(こちらにはエスカレーターは無し)で1階へ降りると、目の前が冒頭写真の「中国河口」と掲げられている国境ゲートの目の前に出ます。

国境を越える橋には残念乍ら国境を示す線もマークもありませんでしたが、ちょうど橋の真ん中あたりの繋ぎ目で写真を撮ってみました(左写真)。

国境で写真を撮ろうとすると警備員に注意されたりすることもあるのですが、中国側警備員も特に見咎めず、ベトナム側に至っては歩哨所に警備員すら居ませんでした。

ベトナム側の出入国審査場は建物(右下写真)は中国よりも立派でした。
恐らく中国に対抗して最近新築したのではないかと思います。

入口右手が入国審査場となっており、先ず検疫カウンターにパスポートを見せた後、入国審査、税関、と続きますが、入国審査でもパスポートは端から端まで見られたものの(恐らく最近30日以内に入国していないかをチェックしていたものと思われます)特に何も聞かれず、帰りのフライトチケットなども求められませんでした。

尚、入国審査場に入る前、つまり両国出入国審査場の間に、何故か闇両替屋がおり、「両替するぞ」と声をかけて来ました。

流石に審査場の目の前だったので警備員に「あっちに行け」とやられていましたが、入国審査を終えるとまたもや同じ両替屋が声を掛けてきました。

以前、広西チワン族自治区友誼関からベトナムに入った際にも国境で同じようなことがありましたが、一体どうなっているのでしょうか。
(因みにその両替屋が提示していたレートは、その後、ハノイで色々と聞いた結果と比べて決して悪くはありませんでした)


【ラオカイ→ハノイ】

ラオカイは、欧米人に人気の高原観光地サパに近く、ハノイとの間に夜行列車が毎日運行されていることから、ここから先は列車でハノイへと向かいます。

ラオカイ国境から駅へは地図で見ると数キロしか離れていませんので体力のある方は十分に歩いて行ける距離ですが、筆者は道も判らず荷物もあったので乗り物を探すこととしました。

出国審査所を出たところで複数の白タク運転手が近付いてきて、怪しげな英語で乗れ乗れと誘ってきます。

然しまずは公共交通機関が無いかと駅前に出てみると、電動カーがたくさん止まっていました(右上写真)。

これで行けるのではないかと思ったのですが、残念乍ら運転手はおらず断念(尚、駅に到着した後、この電動カーは駅前通りを走っていましたので、矢張りこれで駅には行けるようです)。

已む無く白タク運転手と価格交渉、ベトナム・ドンと人民元の両方の値段で折衝しましたが、思ったよりも下がらず30元で交渉成立、白タクで駅まで運んで貰いました。

走ること僅か5分、運転手から着いたぞと言われて降ろされた場所は左写真のようなプレハブ駅舎でした。確かに上には「GA LAO CAI(ラオカイ駅)」と書いてはありますが、事前にネットで調べた他の旅行記で見かけた駅舎とは明らかに異なるため、駅舎警備員に聞いたところ、間違い無くこれがラオカイ駅でした。

この時点でベトナム時間午後17時でしたが、列車は20時20分発とまだ3時間以上あったので、街を散策してみることにしました。

先ずは引っ張ってきた荷物を何とせねばと駅舎警備員に交渉したところ有料で預かってくれることに。最初はドン、次はドルでチップを要求してきましたが最終的には人民元で落着し、身軽になって街へと出てみました。

駅舎を過ぎて徒歩1分、目の前に大きな広場が現れ、そこにあったのはネットで見かけた駅舎の跡でした。

旧駅舎の骨組みを残して取り壊し、左右に拡張工事を行っているようで、何れはプレハブから立派な駅舎に建て替えられるのであろうと思います。

街中は春節(ベトナム語では「テト」)期間中の為、ベトナム国旗を掲げてひっそりとしています。

更に進むと、携帯電話を売っている個人商店が開いていたので試しにSIMカードを購入して中国iPhoneに挿入してみたところ、無事にベトナム携帯として使えるようになりました。

全く言葉が通じず殆どジェスチャーゲームで購入した為、残念乍らネットが出来ないカードを買ってしまったようですが、何故かマップ機能だけは(検索は出来ませんが地図としては)使えたので、この後のベトナム旅行中はとても重宝しました。

街中も一通り見学し終わったので駅舎近くにカフェで休憩していたところ、少しずつ列車待ちの欧米人旅行者も入ってきて、最後は満席近い状態になりました。

ラオカイからハノイへと向かう列車の中で最も豪華なのはヴィクトリア・サパ・リゾートという宿泊施設が運行するヴィクトリア・エクスプレスという専用列車です。

専用列車といっても一編制全てではなく、既存の列車に各リゾート施設が運行する客車が「○○エクスプレス」という名称で連結されている、という形になっています。

ヴィクトリア・サパに宿泊していない筆者は当然にこれには乗れないので、サパリー・エクスプレスという列車を予約しました。

事前に購入しておいたバウチャーは19時から駅舎のサパリー・エクスプレス窓口でチケットと交換ということで、時間通りチケットに無事交換。

駅員に聞くと乗車は19時40分ということなのでそれまでは駅舎近辺を散策。駅舎内(右上写真)もプレハブ状態で、多くの旅行者やバックパッカーが列車を待っていました。

そうこうしている内に時間通り19時40分に改札時間開始、列車に乗り込みます。

サパリー・エクスプレスは1号車・2号車の2車輛となっており、乗車口には左写真の通り「サパリーホテル」というマットが敷かれていました。

この列車を牽引するのは旧チェコスロバキア製のD12E形機関車でした。


<サパリーエクスプレス列車画像特集>

列車を牽引する機関車D12Eです。

旧チェコスロバキア製とのことでした。
サパリー・エクスプレス客車です。

よく見ると横長丸のプレートも入口付近に付いています。
サパリーエクスプレスは1号車・2号車でしたが、ハノイ行の場合は最後尾だったので先頭の機関車を見に行く間に全ての客車を見ることが出来ました。

その中に1輛だけ中国語で「越南鉄路(ベトナム鉄道)」と書かれている車輛がありました。
丁度真ん中付近には二階建客車も連結されていました。

この車輛だけは寝台客車ではなく座席車輛でした。
2号車の通路です。非常に横幅が狭く、引っ張っていた中型スーツケースが通るのがギリギリでした。

窓枠のモールはいつもつけっぱなしなのかよく判りません。
サパリー・エクスプレス寝台車内です。

本来は左右二段ベッドの4名乗車なのですが、追加料金を支払うと2名用で貸し切ることが出来ます。
然し左右上部に折りたたまれた上部ベッドが走行中はギシギシと物凄い音を立てて睡眠を妨害してくれました。
洗面所です。

出発時は相応に清潔な感じだったのですが、一晩越えて到着時になると流石南国、小さな虫が随所に・・・・
洗面所の対面に設置されていたトイレです。

何と洋式でした。ベトナムなのでハンドシャワーもついています。
ベトナム人は紙ではなくこのシャワーでおしりを洗うとのこと。
2号車と3号車の連結部分です。

3号車はサパリー・エクスプレスではない為、通行できないように封鎖されています。
といっても針金でグルグル巻きにしているだけで突破しようと思えば出来ます。実際、深夜過ぎには空いていました。
1号車と2号車連結部分に設置されていた売店です。大したものは売っていません。

ヴィクトリア・エクスプレスには食堂車も連結されているらしいですが、通常の寝台は乗車前に食事を済ませておくか、事前に何か買い込んでおくと良いと思います。
ラオカイ駅周辺を散歩していた際、機関車格納所を発見しました。

我々の乗った列車を牽引してくれたものと同型です。
上記の機関車格納所近くには線路に立ち入れる場所があり、立ち入ってラオカイ駅方面を撮影してみました。

係員のような人もいましたが、特に咎められることもありませんでした。
ハノイ駅には多くの機関車が停まっていました。

然し首都の駅にしては少ないとも言えます。
ハノイ駅の隣のホームに停車していた機関車です。

駅員の帽子がベトナム風でお洒落です。
列車のチケットです。

ベトナム語主体なのではっきり言ってよく判りません。乗車後に係員が回収していきますが、その後、控えとして同じようなものを貰えます。
客車にあったお泊りセットです。

簡単なスリッパ、歯ブラシ、櫛でした。これにミネラルウォーターが付いていました。
ベトナムといえば滅茶苦茶な線路で有名です。

ハノイ駅から500m位の住宅街のど真ん中を線路が通っています。各家はこの線路側が正面玄関になっていました。


列車は非常にゆっくりとした速度で南へ南へと下り、ほぼ定刻の早朝4時40分過ぎ、ハノイ駅に無事到着しました。

ラオカイ・ハノイ間は地図で見ると直線距離で250km程度しかありません。

これを8時間近く掛けて進んだということは、平均時速30km/h程度ということになります。

早朝だったのでハノイ駅舎の周囲は見えず、随分と小さい駅だと思いましたが、日中見ても矢張り大変に小さく、とても首都駅とは思えませんでした。

かくして中国雲南省からハノイへの陸路の旅は無事終了しました。


(2015年2月)