虹口を歩く(1)


【大足石刻の歩き方】


大足石刻のある大足県は重慶市と四川省の省境にある小さな町です。

重慶市中心部から直線距離で約80km、以前は車で2.5時間程掛かっていましたが、2014年に大足東まで高速道路が開通し、1.5時間程度で行けるようになっています。

大足県内には数多くの石刻が分布していますが、通常の観光であれば重慶市中心部から日帰りで「宝頂山石刻」と「北山摩崖石刻」の2箇所を見学することで十分だと思います。

地元の観光ツアーなどでは「宝頂山石刻」のみを見学する場合も多いようですが、「北山摩崖石刻」もお薦めですので、ツアーで行かれる場合は見学先を事前にご確認されることをお薦めします。

現在は大足バスターミナルから宝頂山まで路線バスも開通していますので、公共交通も格段に便利になりました。

筆者は重慶市中心部から車をチャーターして「宝頂山石刻」と「北山摩崖石刻」の2箇所を見学しました。以下は概ねの目安時間として頂ければと思います。

07:30 重慶市中心部発 ⇒ 09:00 宝頂山石刻着 ⇒ 11:15 宝頂山石刻発 ⇒ 11:30 昼食 ⇒ 12:30 北山摩崖石刻着 ⇒ 13:30 北山摩崖石刻発 ⇒ 15:00 重慶市中心部着


【大足石刻の歴史】

大足石刻が開闢されたのは唐高宗永徽元年(西暦650年)と言われており、その後、五代・宋・元・明・清と1200年近くに亘り多くの像が彫られ続けてきました。

敦煌の莫高窟、大同の雲崗石窟、洛陽の龍門石窟を「中国3大石窟」と言いますが、ここ大足も規模と芸術性から言えば、3大石窟に優るとも劣らない内容であると思います。
大足の場合、一部は「石窟」になっていますが、大半は「窟」にはなっておらず、壁面にそのまま彫られている為、「石窟」ではなく「石刻」と呼ばれています。

大足石刻の最大の特徴の一つは、仏教・道教・儒教の混合が見られるという点です。最も著名な観光地である「宝頂山石刻」と「北山摩崖石刻」は仏教像が中心となっていますが、それでもところどころには道教や儒教の影響が見て取れます。「南山石刻」は道教が主となっており、「石門山石刻」、「峰山石刻」は仏教と道教の混合、「石篆山石刻」や「妙高山石刻」は、仏教・道教・儒教の混合となっています。調査によれば、全体の80%が仏教、12%が道教、5%が仏教・道教・儒教混合、残りの3%が歴史的人物の像だということです。

1999年12月に世界遺産に登録されまたが、大足県の中心部には恐らくそれを記念してであろう右上写真の記念碑があります。然し中央の碑こそ上に世界遺産のマーク、柱部分は仏教風の図柄ですが、その周りには写真手前は欧州風、左奥などは正面から見るとバレリーナの像で、なんだかよく判らないモニュメントとなっています。


【宝頂山石刻】


宝頂山石刻は、南宋時代の僧である「趙智鳳」が開闢、命名したと言われています。

大足県の中心部から15kmほど山道を車で登った山中にあります。

2014年に観光地入口が大幅に改修されており、駐車場で車を降りると右写真ような門があり、ここをくぐって奥の建物右にチケット売り場があります。

入場料:宝頂山135元、宝頂山・北山セット170元(2014年6月現在)

然しここから左写真の石刻入口までは、ゆっくりと歩いて30分近く掛かります。

チケット売り場の建物を抜けたところに電動カートがありますので、お時間の無い方や体力に自信の無い方は、電動カートに乗ることをお勧めします。

電動カート代金:15元/人

入口をくぐるとすぐに石刻観光地に入ることが出来ます。

尚、出口から駐車場までも非常に遠いので、電動カートに乗られることをお勧めします。
(電動カートの他、何故か駐車場まで乗せてくれる白タクもいます)

宝頂山石刻の最大の見所は何と言っても中国最大の涅槃像です。

大きさの比較の為に筆者が入った写真を以下に掲載しますが、手前の像ですら人間よりも大きく、涅槃仏が彫られている長さは31mあります。



宝頂山石刻の主な見どころは「大仏湾」と呼ばれる、馬蹄形の谷に長さ500m、高さ15〜30mに渡って築かれた石刻です。
以下に、主な見どころを入口から順番にご紹介します。

「円覚洞」
入口すぐにある、大足石刻では珍しい石窟型の仏像です。
入口上に採光用の窓があり、そこから差し込む光が何とも言えない美しい様子で仏像を光の中に浮かび上がらせています。
「護法神像」
「円覚洞」を出てすぐに見えてくるのが「護法神像」です。
その名の通り、石刻を守るように宝頂山石刻の入口に立っています。仏を中央に8つの菩薩が周囲を固め、憤怒の表情をしている密教の仏像です。
「六道輪廻図」
別名を「六趣唯心図」とも言います。車輪のような輪の中の6つの部分は、仏教の輪廻思想である「天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道」の6道を表しています。
「華厳三聖」
中央が如来、右が文殊菩薩、左が普賢菩薩です。高さ7m、肩幅2.9m、胸厚1.4mと、宝頂山石刻で最大の立像です。
普賢菩薩の手に抱えられている7重塔は重量が500gあり、一度も落ちたことが無いとのことです。
「千手千眼観音」
中国最大の千手観音です中国でも日本でも通常、千手観音に本当に1000本の手はありませんが、この千手観音は本当に手が1000本(正確には1007本)あります。残念乍ら今回訪問した際(2012年5月)は大改装中でした。
(掲示によれば2008年6月より調査を開始し、2011年1月より改修が開始されているそうです)
「釈迦牟尼涅槃像」
全長31m、高さ6.8m、幅3.2mと、中国最大の涅槃像です。涅槃像の前には菩薩、帝釈、護法などの14の像が配置されています。足は岩に隠れ、右肩は地下に埋もれる形で彫られていることで、より大きさを強調する作りとなっています。
手前にある曲がりくねった水路は「九曲連河」といいます。
「父母恩重経変像」
幅15m、高さ7mの中に、父母が子供を育てていく過程における様々な苦しみを表すことで親への感謝を説いていてます。
尚、この像は純粋な仏教ではなく、道教や儒教の影響を色濃く受け継いでいます。
「大方便仏報経変相」
11組の仏典の故事が描かれています。
谷を挟んで反対側の「護法神像」のあたりから撮影しました。濃い緑の向こう側に浮かび上がる様子が非常に美しく、仏の世界が感じられます。
「地獄経変像」
中央に地蔵菩薩、そしてその両脇には閻魔大王の化身として12の地獄の審判官が配置されています。
「柳本尊修行図」
この宝頂山石刻の建築を指揮した「趙智鳳」の祖師である「柳本尊」の修行と説法の様子を再現した彫刻です。
よく見ますと台座の像は身体から下が彫られていませんが、これは作成途中にモンゴル軍が攻めてきた為とのことです。



【北山摩崖石刻】

北山摩崖石刻は、大足県中心部から西北に約0.5kmの場所にあります。

唐末に開闢され、その後、南宋の時代まで約250年に亘って彫られた石刻です。宝頂山石刻とは異なり、こちらは「石窟」の形式になっているものも少なくありません。

ここには全体で452窟、約1万近い仏像が彫られており、夫々の石窟に各時代の特徴が見て取れます。

右写真は、駐車場から数分歩いた場所にある北山摩崖石刻の山門です。
こちらから更に山を登ったところに石刻があります。

北山摩崖石刻には、非常に多くの石刻・石窟がありますので、以下では個々の石仏ではなく、北山全体の様子が判る写真を主に掲載します。

北山摩崖石刻の入口を入ってすぐにある石窟です。
薄い光が差し込む中に浮かび上がる石仏は何とも神秘的な雰囲気を醸し出しています。
北山摩崖石刻の広さが判るように撮影した1枚です。
「孔雀明王像」
北山摩崖石刻の中で私が一番美しいと感じた石仏の一つです。
孔雀明王は密教においては非常に重要な本尊であり、鎮座する石窟の3方には1066体の仏像が彫られています。
「多宝塔」
北山摩崖石刻の出口を出て正面に見える池の脇道を登ったところにあります。
ゆっくり登っても10分掛かりません。


【参考文献】
『大足石刻』、趙貴林、趙安編著、広東旅遊出版社、2011年

(2012年5月)
(2014年6月更新)